重金属拡散

□重金属拡散
■重金属拡散とは
・シリコンウェハに重金属を塗り、拡散炉で800~900度程度に加熱することで、
 シリコン中に重金属を拡散させる工程。パワー系半導体工程の一つ。

  ・重金属を塗る方法
    ・蒸着、スパッタ
    ・重金属イオン含有リキッドのスピンコート
  ・拡散炉内環境
    ・N2(酸化膜形成を防ぐ)

■なぜこんな工程が必要なのか
・重金属拡散は半導体の中でも、パワーデバイスの工程でよく使われる。
・パワーデバイスは電源に組み込まれる素子なので、大電流が流れる傾向にある。
 また年々、機器が高速動作化しており電源も高速性(高周波追従性)を求められる
 ようになっている。
・高速性を確保するには、デバイス面積(チップ面積)を小さくしてしまえばよい。
 チップ面積を小さくすれば、シリコン内の残留電荷量が少なくなるため、
 スイッチング時に素早く残留電荷が掃け、次の動作にスピーディーに移れる。
 だが、それだと大電流を流せない。
・そこで有効な方法が重金属拡散。重金属拡散をすると、シリコン内部に電荷を
 キャッチするポケット(=不純物準位)が形成される。これが残留電荷をキャッチ
 して、シリコン外に漏らさない働きをする。 
 そのため、大きいチップ面積で残留電荷が多く発生しても、残留電荷がシリコン内
 でキャッチされ、素早く消失する(デバイス外にだらだら電流を垂れ流さず、
 スパッと電流が切れる)ため、次の動作にスピーディーに移れる。
・以上の理由から、主にパワーデバイスの工程でだが、重金属拡散工程が必要となる。

■欠点
・普通のデバイスよりもちょっと大きい電圧をかけてやらないと、電流が流れない 
 (VF増大)。これは以下の2つに起因する。
  ①重金属拡散すると、シリコン格子間に重金属が入り込んだり、シリコン原子の
   一部を突き飛ばして重金属と置き換わったりして、結晶格子が乱れる。
   これが抵抗となり、ちょっと大きい電圧をかけてやらないと電流が流れない
   現象を引き起こす。
  ②重金属拡散することで、シリコン内部に電荷をキャッチするポケットが
   形成される。これは、残留電荷をキャッチしてデバイス外に漏らさないという
   良い働きをする一方、通常使用時の電荷もキャッチしてしまい、スムーズに
   電流(電荷)が流れない現象も引き起こす。
・デバイス逆方向に電圧をかけたとき、漏れ電流が普通のデバイスより大きい
 (IR増大)。これは、重金属拡散すると、シリコン内部の空乏層にまで電荷を
 キャッチするポケット(不純物準位とよぶ)が形成されてしまうためである。
 本来、空乏層に逆方向電圧をかけても電流は流れないが、電荷ポケットを
 足がかりにちょっとだけ電流が流れてしまうのである。(ホッピング電子)
 つまり電力ロスになる。
  ※デバイス逆方向に電圧をかけると、理想的には全く電流が流れないが、
   実際はちょっと流れる。重金属拡散をしたデバイスは、これが
   ちょっと多くなる。
■その他
・用いられる重金属種としては、AuとPtが代表的。それぞれ特徴は以下のとおり。
  ・Au:逆方向に電圧をかけたときの漏れ電流がハンパないデメリットがある。
     ただ、拡散量をうまくコントロールすれば、VFをそれほど大きくしないで、
     高速性だけ付与できる条件がある。これはメリット。どちらかというと
     昔の技術。
  ・Pt:逆方向に電圧をかけたときの漏れ電流が小さいメリットがある。また、
     拡散量もコントロールし易い。ただ、高速性とVFの増大が完全に
     「あちらを立てれば、こちらが立たず」状態で、小VFで超高速という
     理想的なデバイスは作れない。
  ・電子線/陽子線照射法:重金属拡散と同じく、デバイスに高速性を付与する
     工程に、電子線/陽子線照射法がある。これは、シリコンに電子線や
     陽子線を照射することで、シリコン内部の結晶格子を乱し、電荷を
     キャッチするポケットを形成する方法である。
     重金属拡散よりも、精密にスペックが制御できるメリットがある。
      ※電子線は、シリコンに浸入した直後から45度に広がり、
       広範囲のシリコン結晶を乱す。
       一方陽子線は、シリコン浸入直後は余り結晶を乱さず、
       陽子の運動エネルギーが弱まってきた射程距離限界の深さで
       一気に結晶を乱すという特徴を持つ。シリコン内部の特定の深さの
       結晶だけ最小限に乱すことができるので、何かとメリットが多い
       (どんなメリットがあるかはわからない)。

以上