重金属拡散2 シリコン酸素濃度との関係

半導体デバイスで汎用的に使われるCZシリコンは製法上、酸素原子が入り込む。
この酸素原子の濃度が、製造ロットによってまちまちである。
このシリコンの酸素濃度によって、重金属拡散の効果が変わってくる

■シリコンの酸素濃度と重金属拡散の効果の関係
・シリコンに重金属拡散をすると、以下の現象が起こる。
  ・シリコン格子間に重金属原子が入り込む(格子間拡散)
  ・Si-Si結合を切って、シリコン原子を突き飛ばして重金属原子に置き換わる
   (置換拡散)
・一方酸素原子は格子間に定着している(格子間拡散)。
 すると、重金属拡散工程で重金属原子が入り込んでも、格子間が既に
 酸素原子である程度埋まっているので、重金属が(格子間に)定着余地しにくい。
  ※余談_定着できなかった重金属はどこに行くの?
   シリコン内で定着できなかった重金属は、あまりデバイス性能に
   関係の無いシリコン裏面に集積するようになっている。
   なぜならシリコンウェハメーカーが、わざと裏面を荒らすなどして
   シリコン裏面に不要・過剰な不純物を集積する工夫をして下さっているから。
・したがって、酸素濃度と重金属拡散の効果の関係は以下の様になる。
  ①シリコンの酸素濃度が低い場合
   格子間の酸素原子が少なく、重金属原子が入り込む余地がたくさんある。
   よって、重金属拡散の効果が高い。すなわち、trrが小さいデバイスになる。
  ②シリコンの酸素濃度が高い場合
   格子間が既にある程度埋まっているので、重金属原子の入り込む余地が少なく、
   重金属拡散の効果は低くなる。すなわち、trrはあまり小さくならない。
 同じ条件で重金属拡散をしたのに、材料ロットによって効果がばらつくのは
 こういう理由があるから。
■イレギュラーなケース
・シリコン中の酸素濃度が高すぎる場合はまた違った様相を示す。
 酸素濃度が高すぎる場合、BMDと呼ばれる酸素偏析クラスタが形成される。
・このBMDが形成されると、周辺のシリコン格子が歪み、結晶欠陥と同様の状態が
 形成され、これらの周囲に重金属が集積する。
・すると、いつもどおり重金属拡散したはずなのに、通常以上に重金属拡散効果が
 高くなってしまう。すなわち、trrが意図せずとても小さくなってしまう。
 スペックがコントロールできなくなる。
・ほかにも、BMDがホッピング準位となり、逆方向のリーク電流が大きくなる
 デメリットがある。
・シリコンの酸素濃度が高すぎる材料ロットを使うと、こんな現象で意図せず
 スペックがばらついてしまうことがある。

■まとめ
・シリコンの酸素濃度が低い場合、重金属拡散の効果が高く、trrが小さくなりやすい。
・シリコンの酸素濃度が高い場合、重金属拡散の効果が低く、trrが小さくなりにくい。
 でもシリコンの酸素濃度が高すぎる場合、BMDという欠陥みたいなものが
 出来る場合があり、今度は逆にtrrが小さくなることがある。リーク電流も大きく
 なることがある。
  ⇒半導体メーカーでは、シリコンの酸素濃度を●●~▲▲の範囲に絞って買う
   という工夫が行われている。