電子の移動度 / 比抵抗
0.概要
・電子の移動度 とは、電子が物質の中でどれだけ移動しやすいか
を表す指標。移動度が高いほど、電子が移動しやすい。
式は以下の通り。
v=-μ・E
※v:電子の速度
μ:電子の移動度
E:電界
・比抵抗とは、物質の電気抵抗を示す値(語弊あり)。
高いほど電気抵抗が大きい。
・移動度と比抵抗は、以下の式のように逆数の関係にある。
ρ = 1/(q・n・μ) ρ:比抵抗 q:電荷
n:キャリア密度≒不純物濃度
μ:電子移動度
・どちらも、半導体の中での電気の挙動を説明する際に
よく使われる項目。
1.半導体の中での電子の動き方
代表的な半導体であるシリコンの中の、電子の移動度を説明する。
・シリコン中の電子は、シリコンの格子をたどってx,y,zの3次元方向に動く。
・電子は、シリコン格子/シリコン中に混ざる不純物に繰り返しぶつかり
ながら(=散乱)移動する。
・シリコンに電圧を加えた状態と加えていない状態で、電子の挙動が異なる。
①シリコンに電圧を加えていない状態での電子の動き方
・シリコンに電圧を加えていない状態では、シリコン格子中をx,y,zの3次元方向に
ランダムに動く。その際、シリコン格子/シリコン中の不純物に繰り返しぶつかる。
そのため、図1のようにジグザグに動く。
・最終的には、結局元の位置に戻る(確率が高い)。←2019.06.02修正
図1
・シリコン中の電子の移動距離は1p sec(=1E-12秒)に10nm程度。
移動速度にすると、10km/s(室温時)ととても速い。
ただし、100nmほど進むと格子/不純物にぶつかって、方向も変わるので、
平均すると一方方向にこんなに速く動き続ける訳ではない。←2019.06.02修正
②シリコンに電圧を加えた状態での電子の動き方
・シリコンに電圧を加えた状態では、格子/不純物で散乱させられながらも、
電圧を加えた方向と反対方向に順調に移動する (図2)。
図2
・移動速度の式は以下。これは物理の教科書に出てくる F・t=m・v の式と同じ。
-q・E・t=m・v
※q:電荷
E:電界
t:平均緩和時間(=電子が物質中の何かしらに衝突するまでの時間)
・移動度の式は以下。
v=-μ・E
※v:電子の速度
μ:電子の移動度
E:電界
2.散乱の影響
・半導体中の電子は、格子や不純物にぶつかる。これを散乱と呼ぶ。
・散乱は以下の2種。
①格子散乱
・シリコン格子にぶつかって、電子の動く向きが変わるのが格子散乱。
・シリコン格子が熱で振動すると電子が格子にぶつかり(=散乱)易くなるため、
高温であるほど格子の熱振動が激しく、電子の移動度が下がる。
②不純物散乱
・電子が不純物の近くを通る際、クーロン力で引き付けられ、電子の動く
向きが変わるのが不純物散乱。
・不純物濃度が高いほど、頻繁に散乱するので、移動度が下がる。
・高温であるほど、電子が不純物の傍を通過する時間が短いので、
移動度が下がりにくい。
・これらの散乱を考慮すると、電子の移動度の式は以下のようになる。
1/μ=1/μa+1/μb :μa_格子散乱の係数 , μb_不純物散乱の係数
3.電子の移動度のグラフ(温度依存性)
・図3は、シリコンの温度が変化すると、移動度がどのように変わるかを示したもの。
横軸がシリコンの温度(ケルビン表記)で、縦軸が移動度。
・温度が高くなる(グラフ右の方)と、格子振動が大きくなり、
電子の移動度が低下する。
・不純物濃度が高くなる(下の方の曲線)と、不純物散乱頻度が高くなり、
電子の移動度が低下する。
・不純物濃度が高く(下の方の曲線)、`かつ低温領域で電子の速度が遅い場合(左の方)、
不純物の傍を通過する時間が長くなるので、不純物に引き付けられる影響が
大きくなり、電子の移動度が著しく低下する。
⇒高不純物濃度の曲線(下の方の曲線)ほど、不純物に引き付けられる頻度が
高くなるので、グラフ左の方で下に大きく曲がる形になる。
図3
4.電子の移動度のグラフ(不純物濃度依存性)
・今度は、不純物濃度が高くなると、電子の移動度がどの様に変化するのかを
表した図。横軸が不純物濃度で、縦軸が移動度。
・3項の記述の通り、不純物濃度が高くなると、電子の移動度は低下する。
ただし一様に低下するのではなく、特定の濃度(1e17~1e18あたり)で
一気に低下する。なぜだろう、調べていない。
・グラフ中、上側の線が電子、下側の線が正孔。
※電子は、スカスカな伝導帯(イメージ:ローカル線の車両内)を移動するので、
移動度が高い。
※正孔は、ビッシリ詰まった価電子帯(イメージ:通勤時間帯の山手線内)を
移動するので、移動度が低い。
図4
5.シリコンの比抵抗のグラフ(不純物濃度依存性)
・今度は、不純物濃度が高くなると、半導体(シリコン)の比抵抗がどのように
変わるか を表したグラフ。
・比抵抗と電子移動度の関係式は以下のとおり。
ρ = 1/(q・n・μ) ρ:比抵抗 q:電荷
n:キャリア密度≒不純物濃度
μ:電子移動度
・3項のとおり、半導体中の不純物濃度が高くなると、不純物散乱が多発するため、
電子移動度が下がる。
・一方で、半導体中の不純物は電子(正孔)を生み出す(語弊あり。詳細※1)ので、
不純物濃度が高くなると半導体中の電子の量が増加する。
この増加量が、電子移動度の低下よりもずっと影響が大きい。
・以上を式でイメージすると以下。
ρ = 1/(q・n↑↑↑・μ↓)
・グラフで描くと下の図のように、不純物濃度が高いほど比抵抗が低くなる。
※尚、4項で示したとおり、
⇒電子は、スカスカな伝導帯(ローカル線の車両内)を移動するので、
移動度が高い=比抵抗が低い
⇒正孔は、ビッシリの価電子帯(通勤時間帯の山手線)を移動するので、
移動度が低い=比抵抗が高い
この2つのの関係があるので、正孔の移動が支配的なp型Siの方が、
比抵抗が少し高い。
図5
※1_余談---------------------------------------------------------------------------------------------------------
※1-1.電子を生み出すとは
・電子(正孔)を生み出す = 電子を価電子帯から伝導帯に引きずり出す という意味。
※「半導体中の電子」には、「価電子帯の電子」と「伝導帯の電子」
があるが、一般的に「半導体の電子」と言われたら「伝導帯の電子」
のことを指す。
なぜなら、半導体の電気的性質を簡単に説明するとき、
「伝導帯の電子」のことを95%くらい重視して考えるから。
・普通、価電子帯(1階)から伝導帯(屋上)に電子を引きずり出すのは大変。
でも不純物(中2階)があると、そこを足掛かりにして、より簡単に電子を
伝導帯に引き出せる。
⇒不純物は、電子を伝導体(半導体中)に生み出す効果がある。
※1-2.正孔とは
・電子が価電子帯から伝導帯に引きずり出されると、価電子帯に電子1つ分の
空きが出来る。これが正孔。
・正孔は電子より移動しにくい。伝導体がスカスカなのに対し、価電子帯は電子が
伝導体に引きずり出された際にできた空きしか空間がないからだ。ぎゅう詰め。
※1-3.電子の重さとは
・半導体の教科書で「電子の重さ」という項目が出てくる。
これは、電子を "重さを持った玉" として考える項目だ。
重さをもった玉として考えると、電子を(古典)物理学の式を使って計算できるので
説明するのに都合が良い。あと半導体の設計にとても便利。
・「電子の重さ」の項目の中で、
「伝導帯の電子と価電子帯の電子は重さが異なる」という説明がある。
これは「スカスカの伝導体中の電子と ぎゅう詰めの価電子帯の電子に
同じ力(電界)を加えたとき、動きやすさが違うよね」 という現象を、
「電子の重さが異なる」という説明で片づけたのである。
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99.参考文献
半導体デバイス 基礎理論とプロセス技術 S.M.Sze p.43-47
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