パワーデバイスの放熱性(熱抵抗)

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 パワーデバイスの放熱性の重要性
・半導体チップの多くは現在、材料としてシリコンが使われている。
・シリコンは優秀な材料だが、100℃を超えると性能が低下し、
 150℃を超えると熱暴走して、機器が確実に壊れてしまう。
  ※シリコンの温度が上がると、価電子帯から伝導帯に電子が励起される。
   (=キャリアが増える=抵抗値が下がる)。すると、より多くの電流が流れる。
   すると、さらに温度が上がる。この負の連鎖でものすごく温度が上がり、
   最終的にシリコンチップ周辺の部品(パッケージ/導線/はんだ)が溶断して、
   機器が壊れる。
・パワーデバイス(電源に使う半導体デバイス)分野で100℃~150℃なんていうのは、
 意外とすぐに到達してしまう温度なので、この分野では電気的性能だけでなく、
 放熱性も重要となる。

パワーデバイスの放熱性を示す指標(=熱抵抗)
・半導体チップは普通、素子(プラスチックパッケージ)に封入して使う。
・素子の背面には普通、熱を排出する金属ブロック(ヒートシンク)がつけられる。

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・なので、素子から効率よく熱をヒートシンクに伝達することが重要。
・この素子からの熱の伝達性(素子の放熱性)を示す数値を熱抵抗という。
  ⇒熱抵抗が大きいと、放熱が悪く、素子の中に熱がこもりやすくなる。
  ⇒熱抵抗が小さいと、放熱が良く、素子の中から熱が逃げやすくなる。
・熱抵抗は、動作中のチップ温度を算出するのに使う。
 算出したチップ温度が、150℃を超えていてはダメだし、
 100℃を超えていても使い方として好ましくない。
 何Aまで電流を流して使えるのかを算出したチップ温度から判断する。
  ※動作中のチップ温度は直接測定できない。プラスチックパッケージの中に
   封入されているから。なので、熱抵抗を使って、計算をする。

熱抵抗の使い方1
・チップ温度が何℃になっているか、熱抵抗と周辺温度と電力から計算する。
・必要な情報は次の3つ。
   ●熱抵抗:Rth(j-a)
     ※チップ(junction)と周辺温度(ambient)間の熱抵抗
   ●周辺温度:Ta ←これを自分で測定する。
   ●電力:P
・これらの数値を、チップ温度Tjの式に入れて計算すると、
 チップ温度が計算できる。
   ●Tj=Ta+Rth(j-a)×P
※定常時(=常時通電する使い方のとき)
 ・熱抵抗Rth(j-a)は1つの値でデータシートに載っている。これを使う。
※過渡時(=瞬間的に通電する使い方の時)
 ・熱抵抗Rth(j-a)は、通電時間によって変動する。
  データシートに以下の様なグラフで出ているので、ここから読み取って使う。
  以下の例では、1秒通電での熱抵抗は60[℃/W]。

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熱抵抗の使い方2
・チップ温度が何℃になっているか、熱抵抗とケース温度と電力から計算する方法もある。
・必要な情報は次の3つ。
   ●熱抵抗:Rth(j-c)
     ※チップ(junction)とケース温度(case)間の熱抵抗
   ●ケース温度:Tc ←これを自分で測定する。
   ●電力:P
・これらの数値を、チップ温度Tjの式に入れて計算すると、
 チップ温度が計算できる。
   ●Tj=Tc+Rth(j-c)×P
※ただRth(j-c)は、実装条件で結構変わるので、
 データシートの熱抵抗がそのまま使えるかどうかは、
 データシートの測定条件と実装条件の差を鑑みる必要があるので少し不便。